暗闇はまだ解けない。
朝5:15に起き、日本から持ってきたヘッドライトを使いながら、荷物をまとめ、私たちは宿をチェックアウトした。 真っ暗闇の街だが、月明かりで人の影が近づいたり遠ざかるのがわかる。 時々、自転車がすれ違う。 日本で、この暗さの中、自転車を走らせる人がいるならば、新聞配達員だろうけれど、すれ違う自転車は、新聞など載っていない。 何のために自転車を走らせているのだろうか。 所々、家の前で焚き火をしている人たちがいる。 電気ストーブは、カトマンズの庶民たちは持っていない。 だから、夜から朝にかけての冷えは、焚き火でカバーする。 まだ、始まっていない暗いカトマンズの今朝に、焚き火のパチパチッという木片を燃やす音が鳴り響く。 こんなにも暗闇の街なのに、歩くことに恐怖がない。 昨日のたった一日、カトマンズを歩き回っただけだったが、危ない街ではないことを充分、肌で感じていた。 もちろん、構えの気持ち、20パーセントは忘れてはいない。 私たちは、暗闇の中でさえ、どこからどう見ても、異国人だったからだ。 でも、インドやタイの暗闇と比べると、その暗闇は、本当に安全に感じた。 何よりも、野良犬の気質が、それを1番表しているといえよう。 町の中、5mおきにいるのではないかと思うほど、カトマンズのまちでは、野良犬が一緒に生活している。 もちろん、最初は、インドの時のように、かなり警戒し、避けて通った。 狂犬病の犬に噛まれて、病気にでもなったら、命を落とす可能性があるからだ。 実際、バラナシの犬の目は、どっちを向いているかわからなかったし、突然狂ったように、隣にいた犬に噛みつき、甲高い声を出す光景を何度も見た。 が、カトマンズの犬は、それ程ではなかった。 身体は汚れているが、直感的にかわいいと思える安全さを、カトマンズの犬たちは持っていた。 温かな冬の陽射しにウトウトとしている犬や、1人機嫌よく、食べ物を探している犬。人間に危害を与える雰囲気が全くなく、ただ、穏やかに時間が過ぎるのを待っている犬ばかりだった。 だから、こんな、まだ闇も明けぬ暗い町中でも、何も怖がらずに歩けたのである。 ポカラへのバスが出る道路は、タメル地区を抜けた大きな交差点のそばにあり、私たちの宿から歩いて20分程だった。 バスが出る場所は、昨日、地元の小さなツアー会社でバスチケットを手配したあと、下見に行っていた。暗闇の中だと、きっとわからないだろうからと。バス停のマークなどは一切なかったが、この辺だろうという目星はつけた。 暗闇の中でも、そこは、すぐにわかった。 なんと、ポカラに行く各バスが、10台以上、縦列駐車して、乗客と夜明けを待っていたのだ。 昨日の下見はいらなかったと後悔した。 むしろ、あの中から自分たちが乗るバスを探し出す方が困難だった。 と、歩いていると、『どこのバスに乗るんだい?』とネパール人が話しかけてきた。 『BLUE SKY』と伝えると、ついて来いというジェスチャー。 こういうときは、大体、自分の契約するバス会社のバスに乗り込ませ、繋ぎ代をバス会社からもらおうとする作戦だ。 まあ、時間もあるし、ついて行く。 『これだよ。』と案内してくれたバスのボディには、確かに『BLUE SKY』と書いてあった。 正真正銘のただの親切だった。 素直に、最初からありがたい気持ちで彼に寄りかかることができなかったことを申し訳なくも思った。 ありがとう。とお礼を言い、バスに乗り込むと、そこは、私たちが想像したよりも遥かにクリーンで明るい車内だった。 え?これで、片道550ルピー(日本円で550円ほど)? 旅行者がよく使うデラックスバスではなく、私たちは普通バスを選んだ。 何事も経験である。 と、何よりも値段に惹かれた。 カトマンズからポカラまで、8時間は、舗装されていない道を走るというのに、たったの550円である。 なのに、こんなクリーンである! しかも、明るい! カトマンズに来て以来の明るさを、いま、この550円のバスで味わっている。 夫と私は、このバスの移動をかなり苦痛に考えていたので、ついつい『これなら、余裕じゃん』と顔を見合わせる。 席に着くなり、酔い止めのアネロンを飲む。 車内がクリーンなのと、車酔いは、また別の問題にあるからだ。 トイレが異常に近い夫は、トイレのついていないバスだと分かると余計に、もよおすらしく、トイレに行ってくるという。 しばらく帰ってこないのをみると、トイレが近くにないんだなあと察した。 そして、しばらくして帰ってきた彼は、一言。 『史上最悪のトイレを味わった』と。 彼が大抵の汚さを、耐えられることを私は知っていたので、この発言にはビックリした。 もし、内容を聞いたら、トイレ恐怖症になりそうだったので、『まじか。。。おつかれ』とだけ言って、その汚さの内容は聞かなかった。 帰国し、彼が、また思い出し、『あのときのトイレは、本当に史上最悪だった。』と内容を少し話し出そうとしたら、彼自身が、思い出しただけで、おえっと吐きそうになり、涙目になってた。 本当に汚かったんだろうよ。 クリーンな明るいバスで、他の乗客を待っていると、一組みの夫婦が乗ってきた。 座席番号の見方を教え、夫婦が席につくと、バスの乗務員らしき人が、予約表を持って、近づいてきた。 最初にその夫婦が、持っていたチケットを渡すと、係員は、『このバスではない』と、その夫婦たちを違うバスに案内した。 次に、私たちが彼にチケットを渡すと、私たちは、ここでいいと言う。 そりゃそうだ、地元の人に案内してもらっているのだから、間違いがあるはずがない。 と、また一安心し、ふと、返されたチケットを眺めていると、国籍のところが『korean』と書かれている。 うわ!私たちのチケットじゃない! あの、さっきの乗務員が私たちのチケットを偽のチケットとすり替えたんだ! 夫が、急いで、さっきの乗務員を外に探しに行く。 待たされた私は、落ち着いて、ああ、騙されたな。と思った。 予約表らしきバインダーを持っていたから、信じて素直に、チケットを彼に渡したが、実は、偽の乗務員で、正規のチケットを盗む悪人だったのだ。 正真正銘のただの親切を受けたばかりだったので、気が緩んでいた。 あんな紙切れでも、ポカラへの切符を失った私は、『さあ、カトマンズで今日は何して過ごそう』と考えた。 すると、さっきの夫婦が顔色を変え、バスに乗り込んできた。 一度座った座席らへんを、見ている。 『チケット、落ちてませんでしたか?』と聞かれる。 !!!!! このとき、バスチケット詐欺のトリックの謎が解けた。 私たちが受け取ったバスチケットは、この夫婦のものだったんだ! この夫婦の国籍を、そのとき、私たちは知った。 乗務員が返したチケットが入れ替わってしまっていたことを話し、私たちから韓国籍バスチケットが、夫婦に戻った。 そして、超おっちょこちょいな、偽物ではなかった乗務員から私たちは、japaneseと書かれた私たちのバスチケットを返してもらった。 あたしが、この乗務員の先輩だったら、水の入ったバケツを両手に持たせて廊下に一時間は立たせる! 最悪なミスだ! 何の反省もなく、普段通りの乗務員。 怒りさえ湧き出てこない。 すると、また別の乗務員が私たちのチケットを見にきた。 だーかーらー、もう何度見せたら気が済むのだよ! 乗務員は言った。 『あなたたちのバスは後ろのバスです。』と。 うそーーー!! 乗務員についてゆき、後ろのバスのボディを見たら、そこにも書いてあった『BLUE SKY』。 やはり、格安の普通車550ルピーのバスが、あんなにクリーンで明るいわけがなかった。 私たちは、デラックスバスの方に乗り込んでいたのだ。 案内されたバスは、つい30分程前まで想像していた通りのポカラ行きの普通バスだった。 暗い車内に、汚いシートと、それなりの乗客。そして、さっきの韓国籍の夫婦も車内にいた。 テンションが、明らかに下がった私たち。 最初に、クリーンなバスまで案内してくれた正真正銘のただの親切ネパール人を、ちょっと恨んだ。 まあ、待ち時間だけでも、あんなクリーンな場所に座って待てたのだから、ラッキーだと思おう。 何よりも、バスチケット詐欺にも遭わず、無事に予定通り、私はポカラへ向かうことができるのだから。 バスは、夜明けのカトマンズを30分遅れで出発した。 まだ、今日が始まって2時間弱だというのに、既に、ものすごいエネルギーを消費していた。
by koyama516natsuki
| 2013-01-14 11:49
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